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夢枕獏の文体のガイドライン

641 :水先案名無い人:2005/07/28(木) 15:26:33 ID:SGZXLUQR0
正面に現れた車を見て、男は一瞬血の気が引いた。
慌ててハンドルを切る。
重い。
己の無力さゆえ、重い。
動かない。
ドン、
と、大きな音をたて、二台の車は衝突した。

やがて、先に車からのそりと這い出してきたのは、老紳士である。
老紳士は、男の車へ近づくと、運転席から男を助け出した。
「怪我は、ねえかい?」
老紳士が、言った。
その柔らかい物腰に、男を少々面食らわせた。
「あ、あ、ああ。あなたは?」
「おいらは、無事さあ。こんな事故なのに、お互い怪我ひとつねえなんて、運がいいじゃねえか」
そう言って、老紳士は、内ポケットをまさぐると、小瓶を取りだし、男の鼻先につきつけた。
「こんなときはよ、気を落ち着けるのが肝心だぜえ」
こいつは、効くんだ――
老紳士が、にぃと笑った。
「ああ、ありがとうございます」
一滴、二滴。
確かに、上手い。
乾ききった喉の奥を、きゅうっと何かが走り抜けていった。
気がつけば、半分程も飲んでしまっている。
「さあ、あなたも」
男が返した小瓶を受け取ると、老紳士は小瓶の蓋を閉めて内ポケットにしまい、皺だらけの顔に微笑みをたたえて言った。

「おいらは警察の事故処理が終わってからゆっくりと飲ませてもらうわあ」

「な、な――」

そういうことであった。

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